専攻長挨拶

 

 2011年3月に福島第一原子力発電所で過酷事故が起き、日本のエネルギー政策や原子力政策は抜本的な見直しを迫られました。そして、一時は国内の全ての原子力発電所が停止する事態にもなりました。2017年4月の時点では、一部の原子力発電所が再稼働されたものの、日本における研究用の原型炉等の廃止や、欧米で原子力事業を営む有名企業の経営破綻など、原子力利用に関してはあまり明るいニュースがありません。さらに、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを活用すれば、原子力の利用は不要であるとの主張までも耳にしたりします。ただ、研究開発や企業経営に伴うリスクは一般に存在し、原子力分野に限定されるものではありません。上記のような苦境に陥った原因を徹底的に分析するとともに、これまでに培った知見や新たな発想に基づく改善や改革に果敢に取り組む必要があります。また原子力不要論に関しては、その妥当性について、工学的・経済的特性を考慮した定量的な検証が必要です。公平で厳格な検証を行えば、特に日本では、供給安定性、経済合理性、環境適合性という指標で、原子力は総合的にバランスの取れた重要な選択肢として評価されるはずです。

 原子力エネルギーや放射線を対象とする技術は、消費財等での汎用的な利用がまだ殆どなされておらず、宇宙飛行や生物細胞などを対象とした技術に匹敵するほどに、重要課題や興味深い研究開発テーマが数多く見いだせる先端分野の技術です。さらに、原子力工学には、機械工学、電気工学、化学工学などの複数の工学分野にわたる総合工学という側面もあります。本専攻は特に工学の様々な分野に関係するセンシング、大規模システムのシミュレーション技術、安全学や経済性評価などに関する多くの研究教育実績を有しています。2013年に社会技術システムのリスク管理などを研究対象とするレジリエンス工学研究センターが工学系研究科に設立されましたが、3名の教員が同センターと本専攻を兼担しています。

 本専攻では2005年の設立以来、工学のみならず、人・社会との関係という社会科学的観点からのリスクや安全性の教育にも注力しています。世界的長期的視野に立った大学本来の役割を果たすため、「英語による段階的な講義体系」と「国際機関への派遣を含む多様なプロジェクト型演習」から構成されるカリキュラムでの教育を実施しています。また、システム創成学専攻や技術経営戦略学専攻と共同で、社会技術システムのリスク管理の専門知識の修得を目的としたレジリエンス工学横断型教育プログラムを実施しています。

 福島第一原発事故で得た様々な教訓を省み踏まえつつ、人類社会の持続可能な発展に貢献できる人材の養成に尽力していきたいと思います。

 

原子力国際専攻 専攻長
藤井 康正