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松崎 浩之 教授
Study04
研究結果が人類社会の持続的な発展、
賢い選択をするための指針になればと思っています
教授の研究室では原子力のどのような
領域を学ぶことができますか?
原子力システムがいかに環境と調和して存在していけるか、そのためには何が必要か、を考えることが大きな研究テーマの一つです。原子力発電というのは、核分裂反応を人工的に促進させることによって、大きなエネルギーを取り出す技術ですが、同時に多くの放射性核種を生み出します。こうした放射性核種が漏洩して環境を汚染しないか、つまり人間社会に影響がないかどうかの調査をすることは大変重要です。また、万が一微量に漏洩した場合には、放射性核種の環境中での分布や移行挙動を詳しく調べ、人間社会への影響を評価しなければなりません。このような研究は、環境影響評価研究と呼ばれる研究領域に属します。環境影響評価研究では、さまざまな研究手法がありますが、私の研究室では、極めて微量な核種の分析手法である、加速器質量分析法を駆使しています。原子力システムというのは発電の技術だけがあっても社会に受容されません。システム全体が、環境と調和するということが非常に大事になってきます。私の研究室では、極微量核種の分析技術を駆使して、原子力システムの環境への影響を評価しています。さらに、そこから発展して人類活動の環境への影響を考えています。一つの例を挙げましょう。核分裂生成核種にヨウ素129という核種があります。これは、加速器質量分析以外の手法では測定が難しい核種です。ヨウ素129は自然界でも宇宙線の影響や、天然ウランの核分裂で生成しますが、その量はごくわずかです。ところが、1950年代になって、人類が大気圏核実験や原子力発電の利用を開始すると、その生成量は急激に増大しました。こうした時間軸に沿った大きな変化は、環境中のアーカイブ(地層や堆積物など)に明確に記録されています。すなわち、極微量の核種を分析する加速器質量分析の目で見ると、原子力エネルギーの利用という人類の活動の記録が、環境中に明確に記録されていることが明らかになるのです。このように人類の活動の影響が環境中に明確に記録されるのは、地球史上初めてのことではないでしょうか。私たちの研究は、環境影響評価研究から始まって、最終的には、人類が自然環境の中にどのような影響を与えたか、足跡をのこしてきたか、を正しく理解することを目指しています。研究結果が、将来の人類社会の持続的な発展、賢い選択をするための指針になればと思っています。
学びの先にはどんな未来の選択(仕事)がありますか?
原子力工学に直接関わる仕事や、研究職につく学生は研究室で学んだ研究内容を発展させる形だと思いますが、研究室で学んだ手法やものの考え方を活かしていけば、どのような仕事にでもつけると思います。私の研究室からの卒業生はまだそれほど多くありませんが、研究職の他に,メーカーの開発研究部門、ゴミ処理場などの大規模プラントの設計・製造を手がける企業、国家公務員(環境省)へ就職した学生もいます。理系だけでなく、銀行やコンサルタントへも就職の実績があります。選択肢は幅広くありますね。研究室には海外からの留学生も多く、フィリピンの原子力研究所で主任研究員として活躍している卒業生もいます。フィリピンは現在原子力発電はやっていないのですが、今後導入したいということで、その際重要な、環境影響評価研究のチームをけん引する役割を担っています。アジアの国々では、原子力を導入したいという意識が強いという印象です。エネルギー確保は国の産業発展に欠かせないものなので、効率よくエネルギーを発生できる原子力は大変重要視されています。もちろん、リスクもあるわけですから、原子力の選択にはあらゆる研究・調査と賢い決断が必要になるわけです。そういった意味で、留学生の原子力工学への勉学の熱意は大変なものです。
教授が思う、原子力国際専攻の魅力を教えてください。
基本的には原子力工学の研究教育がベースになっていますが、原子力工学という研究分野自体は幅広い分野にまたがった研究体系だと感じています。レーザー・イオンビーム・加速器などの最先端の物理学から、廃棄物処理技術では化学実験、環境動態研究などでは地球科学や環境学、さまざまな構造物をつくるための材料研究、巨大なシステムを制御するためのシステム工学的な研究、社会への受容性を研究する社会工学、国際に目を向ければ核不拡散、核燃料を扱う上での国際間での取引など、実にさまざまな領域の研究が行われています。そういう多様な学問を学べるところが大きな魅力だと思います。教授陣もさまざまな専門の研究者が在籍していて、学生は、その中で自分のやりたいことを見つけて学ぶことができます。学生は、指導教員の元で研究を行いますが、副指導教員もケアしているので、万が一研究に行き詰まった場合でも、複数の教員が連携しながら相談にのるような体制もできています。
入学を検討している
学生へメッセージをお願いします。
21世紀に入って世界全体の価値観が変わってきていると思っています。20世紀までは物質的な繁栄を追い求めてきたけれど、21世紀に入る頃から、地球温暖化や気候変動などの地球環境問題、人口増加や食料問題などが提起されてきたことをきっかけに、物質的な繁栄だけではない人間の本当の幸せはなんだろうという問いかけが大切になってきました。工学も、効率や生産性ばかりを追い求めるのではなく、これからは自然環境との調和や、本当の意味での人間の心の充足、そういったものに寄り添うものでなければならないと思います。そういった価値観は急に変わらないかも知れませんが、広い意味での原子力工学は、価値観の変化に最も敏感な分野であり、また、キーになるテクノロジーを最も多く含む学問体系だと思います。私の専門分野で言えば、核種を分析することで、直接的には環境影響評価による原子力システムへ貢献し、発展して、21世紀における価値観の変貌といったものを感じながら、人類が自然環境のなかでどういう足跡をたどってきたかを考察していきます。人間の価値観の変化を理解しながら、人類全体がどういう方向に進んだらいいのかを考えていきたいと思っています。